ベトナムには、自国発の検索エンジンCốc Cốcが今も一定の存在感を保っているという、ASEAN域内でも珍しい事情があります。加えて2025年12月には、ASEANの中でも数少ないAI専門法が国会を通過しました。本稿はベトナムという「国」を単位に、市場・普及・規制の全体像を一次情報にもとづき整理します。

01結論サマリー

Googleが9割を超えるASEANの中で、なぜベトナムだけは自国産の検索エンジンが3%台のシェアを維持しているのでしょうか。

ベトナムの検索エンジン市場でGoogleは95.59%、Cốc Cốcは3.62%を占めています(Statcounter、2026年6月)。Cốc Cốcという企業単体の実務ポイントは、別記事『Cốc Cốc実務ガイド|ベトナム固有検索とクローラー対応』で深掘りしています。本稿は国全体の市場構造・規制動向に焦点を当てます。

2025年はベトナムのAI規制にとって転換点でした。6月に個人データ保護法、12月にはASEANでも数少ないAI専門法(AI法、2026年3月1日施行)が相次いで成立しています。日本企業がベトナム向けにコンテンツを展開する際は、この規制の速さを前提に準備することをおすすめします。

02検索エンジン市場の実態(シェア実測)

ベトナムの検索エンジン市場は、ASEAN域内で唯一Googleが90%台前半にとどまる市場です。

検索エンジンシェア
Google95.59%
Cốc Cốc3.62%
Bing0.44%
Yahoo!0.27%
DuckDuckGo0.04%
Yandex0.02%

出典: Statcounter Global Stats(全プラットフォーム合算・2026年6月)

デバイス別のトラフィック構成は、モバイルが優位という点でASEAN内でも際立った特徴を示します。

区分ベトナム世界平均
モバイル63.32%51.51%
デスクトップ35.8%47.12%
タブレット0.88%1.36%

出典: Statcounter Global Stats(2026年6月)

📊 図解制作中
ベトナムの検索エンジン市場シェアの構成比。Google 95.59%を中心の大きな要素とし、Cốc Cốc 3.62%・その他0.79%を円グラフ相当の構成比で示す

ベトナムは、ASEAN6か国の中で唯一Google以外のエンジンが3%を超える市場です(出典: Statcounter)。別記事『シンガポールのAI検索統治|市場構造とエージェントAI指針』で扱ったとおり、同じCốc Cốcはシンガポールでも1.07%のシェアが観測されています。ただし越境利用の理由は、本稿執筆時点で一次情報から確認できていません。

本稿のシェア数値はStatcounter単独の実測にもとづいており、ベトナム国内の独自統計機関によるデータとの突合は行っていません。タグ設置サイトのページビュー集計という方式ゆえ、サイト構成の偏りに由来する誤差が生じうる点はご留意ください。

03AI検索の普及状況

Reuters Institute Digital News Report 2026が対象とする48市場に、ベトナムは含まれていません。そのため本稿では、Statcounterの実測データを軸にAI検索の普及状況を整理します。

ベトナムのAIチャットボット市場では、ChatGPTが70.66%、Google Geminiが20.63%を占めています(出典: Statcounter、2026年6月)。この2サービスで9割以上を占め、Perplexity(3.92%)・Claude(2.79%)・Microsoft Copilot(1.98%)は少数派にとどまります。

ベトナムのインターネット普及率は84.2%で、利用者数は8,560万人です(出典: DataReportal「Digital 2026: Vietnam」、2025年10月時点)。総人口1億200万人のうち、なお約1,610万人がインターネット未接続の状態にあります。

この基盤の上でAI検索が普及していく市場という点は、日本企業がベトナム向け施策のタイミングを検討するうえでの前提になります。

04現地の取り組み・実例

AI検索での引用最適化を掲げて動いたベトナム企業の実名事例は、本稿執筆時点でまだ公開情報に見当たりません。そこで本稿では、国家レベルでAI産業を支援する法制度の整備状況を軸に見ていきます。

2025年12月10日、ベトナム国会はAI法(法律134/2025/QH15)を、出席434人中429人(90.70%)の賛成で可決したと報じられています(出典: 現地報道)。全8章35条で構成され、2026年3月1日に施行されます(出典: LuatVietnam法令データベース、ベトナム情報通信省(MIC)公式)。

AI法は「AIは人間に奉仕するものであり、人間に取って代わるものではない」という人間中心の原則を掲げています。具体的な支援制度として、次の仕組みを法定しています。

  • 国家AI計算センターの整備と、政府管理下のオープンデータシステムの構築
  • AI開発基金の設立による産業支援
  • 中小企業向け「AI Voucher」制度
  • 規制の実証実験を可能にするサンドボックス制度

出典: MIC公式発表(ベトナム情報通信省)

📊 図解制作中
ベトナムのAI関連法制の時系列。「2021年1月26日: 国家AI戦略(決定127号)を決定」→「2025年6月26日: 個人データ保護法(法律91号)成立」→「2025年12月10日: AI法(法律134号)を国会可決」→「2026年1月1日: 個人データ保護法施行」→「2026年3月1日: AI法施行」の5点を時系列フローで示す

これらの制度は2025年末に法定されたばかりです。AI Voucherの交付実績や規制サンドボックスの採択事例など、運用実態を示す一次情報は本稿執筆時点でまだ確認できません。制度の存在と、今後の運用実態は分けて捉える必要があります。

05規制・政策

ベトナムのAI・データ関連規制は、2021年の国家戦略を起点に、2025年に急速な法制化が進みました。

制度時期概要
国家AI戦略(決定127号)2021年1月26日決定2030年までにASEAN上位4位・世界50位以内を目標に掲げる
個人データ保護法(法律91/2025/QH15)2025年6月26日成立・2026年1月1日施行旧デクリー13号(2023年7月施行)を法律レベルへ格上げ
AI法(法律134/2025/QH15)2025年12月10日可決・2026年3月1日施行リスクベースの分類・管理、AI生成コンテンツやクロスボーダーAIサービスの責任規定を含む

出典: LuatVietnam法令データベース/ベトナム情報通信省(MIC)公式発表

AI法には、健康・教育・金融分野のAIシステムについて2027年9月1日までの経過措置期間が設けられています(出典: LuatVietnam)。日本企業がこれらの分野でベトナム向けAIサービスを提供する場合、経過措置の対象範囲を個別に確認することをおすすめします。

06日本企業への示唆

ベトナム向けにAIサービス・コンテンツを展開する日本企業は、次の3点を確認しておくことをおすすめします。

  1. 検索エンジン対策はGoogle中心としつつ、Cốc Cốc向けの技術要件も個別に検討してください。 具体的な実務ポイントは別記事『Cốc Cốc実務ガイド|ベトナム固有検索とクローラー対応』にまとめています。各エンジンの特性差は、別記事『AI検索エンジンの種類と使い分けまとめ|主要7サービス比較表』も参考になります。
  2. 2026年3月施行のAI法の適用範囲を確認してください。 特に健康・教育・金融分野でAIサービスを提供する場合、リスクベースの分類と経過措置の期限を専門家に確認することをおすすめします。
  3. 2026年1月施行の個人データ保護法(法律91号)について、ベトナム国内のユーザーデータを扱う場合は、法律レベルに格上げされた新法の要件を点検してください。

ASEAN各国の全体像は、別記事『ASEAN・オセアニアのAI検索地図|現地エンジンと規制を比べる』を参照してください。AIOの基礎整理は、別記事『AIOとは何か?SEOとの違い・共通点から始め方まで徹底解説』も参考になります。

07FAQ

Q. 2026年3月施行のAI法は、日本企業にも適用されますか?

本稿執筆時点で、外国企業への適用範囲の詳細(域外適用の有無等)までは一次情報で確認できていません。ベトナム国内でAIシステムを提供・展開する場合は、ベトナム情報通信省(MIC)公式または専門家への確認をおすすめします。

Q. ベトナム向けの検索エンジン対策はGoogleだけで十分ですか?

基本方針としては妥当ですが、Cốc CốcはASEAN6か国の中で唯一Google以外が3%を超えるエンジンです(出典: Statcounter、2026年6月)。ベトナム語コンテンツを本格展開する場合は、Cốc Cốc向けの技術対応も検討する価値があります。

Q. ベトナムのAI検索利用はどのサービスが中心ですか?

Statcounterの実測では、ChatGPTが70.66%、Google Geminiが20.63%とこの2サービスで9割以上を占めています(2026年6月)。ニュース目的でのAI利用に関する国際比較データは、本稿執筆時点でベトナムを対象にしたものが確認できていません。

08この分野を体系的に学ぶ

この記事は国・地域プロファイル記事です。海外のAI検索規制・市場動向を基礎から体系的に学びたい方は、AI検索最適化講座「事例編: ケーススタディ徹底分析(VI-C)」をご覧ください。