AIエージェントの統治フレームワークを、世界で最初に策定した国はどこでしょうか。答えはシンガポールです。IMDA(情報通信メディア開発庁)は2026年1月、agentic AI向けのガバナンス枠組みを世界に先駆けて発表しました。本稿は、この「AI統治の先進性」を軸に、シンガポールの検索エンジン市場の実態と規制の現在地を一次情報にもとづき整理します。

01結論サマリー

シンガポールが世界の注目を集める理由は、検索市場の規模ではなく、AIガバナンス制度の先進性にあります。

引用されやすい定義文

シンガポールは、世界初のagentic AI統治フレームワークを策定した国です。

シンガポールの検索エンジン市場でGoogleは92.98%を占めています(2026年6月・Statcounter)。IMDAは2019年のModel AI Governance Frameworkを起点に段階的に枠組みを更新してきました。2024年に生成AI版、2026年1月にagentic AI版を追加しています。

日本企業がシンガポールから学ぶべきは、AIガバナンスの枠組みが理念だけでなく、実在企業を巻き込んだ検証プログラムとして実装されている点です。

02検索エンジン市場の実態(シェア実測)

シンガポールの検索エンジン市場は、Googleが優位という点でASEAN各国と共通していますが、2位以下の顔ぶれがやや異なります。

検索エンジンシェア
Google92.98%
Bing3.16%
Cốc Cốc1.07%
Yahoo!0.92%
DuckDuckGo0.90%
Yandex0.64%

出典: Statcounter Global Stats(全デバイス合算・2026年6月)

ベトナム発の検索エンジンCốc Cốcが1.07%のシェアを持つ点が特徴です。デバイス別のトラフィック構成は次のとおりです。

区分シンガポール世界平均
デスクトップ52.73%47.12%
モバイル46.1%51.51%
タブレット1.17%1.36%

出典: Statcounter Global Stats(2026年6月)

📊 図解制作中
シンガポールの検索エンジン市場シェアの構成比。Google 92.98%を中心の大きな要素とし、Bing 3.16%・Cốc Cốc 1.07%・その他1.82%を円グラフ相当の構成比で示す

Cốc Cốcのシェアはベトナム(3.62%)より小さいものの、シンガポールでも一定の存在感を保っています。越境利用の理由は本稿執筆時点で確認できていません。

本稿のシェア数値はStatcounter単独の実測にもとづいており、シンガポール政府統計局等による独自データとの突合は行っていません。タグ設置サイトのページビュー集計という方式ゆえ、サイト構成の偏りに由来する誤差が生じうる点はご留意ください。

03AI検索の普及状況

シンガポールでは、ニュース目的でAIチャットボットを利用する人の割合が11%です(出典: Reuters Institute Digital News Report 2026)。世界全体の週次利用率10%とほぼ同水準で、先進国の中でも標準的な普及度といえます。

シンガポールのニュース全般への信頼度は46%で、世界平均37%を上回ります(出典: 同レポート)。同国はインターネット普及率94%・人口590万人という基盤の上で、AI活用の実証も進んでいます。

04現地の取り組み・実例

AI検索での引用・可視性向上を目的とした施策をシンガポール企業が実施した事例は、本稿執筆時点の公開情報にはたどり着けていません。代わりに、IMDA主導のAIガバナンス実証プログラムを軸に整理します。

IMDAとPDPC(個人データ保護委員会)は2022年5月25日、AIガバナンスのテスト用フレームワーク「AI Verify」を試験公開しました。パイロット企業として参加したのは次のような実在企業です(出典: PDPC公式発表)。

  • AWS・Google・Meta・Microsoft
  • DBS銀行・スタンダードチャータード銀行
  • シンガポール航空
📊 図解制作中
シンガポールのAIガバナンス制度の時系列。「2019年: Model AI Governance Framework初版を発表」→「2022年5月: AI Verify試験公開(パイロット企業10社超)」→「2023年6月: AI Verify Foundation設立(一般会員60社超)」→「2023年12月: 国家AI戦略2.0(NAIS 2.0)発表」→「2026年1月: agentic AI向けガバナンス枠組みを発表」の5点を時系列フローで示す

2023年6月7日には、AI VerifyがGitHub上でオープンソース化され、同時にAI Verify Foundationが設立されました。設立メンバーには、IMDAのほかIBM・Microsoft・Google・Red Hat・Salesforceが名を連ねています。一般会員にはAdobe・DBS・Meta等60社超が参加しています(出典: IMDA公式発表)。

05規制・政策

シンガポールのAI・データ関連規制は、個人データ保護法とAIガバナンス枠組みという2つの制度が並行して機能しています。

制度時期概要
個人データ保護法(PDPA)2014年7月2日全面施行・2021年2月改正制裁金は最大100万Sドルまたは年間売上高の10%
Model AI Governance Framework2019年初版・2024年生成AI版幻覚・偏見・知財等のリスク対応指針
同(agentic AI版)2026年1月22日発表・同年5月20日更新自律型AIエージェント向け世界初の枠組み
国家AI戦略2.0(NAIS 2.0)2023年12月4日発表卓越性・能力強化の2目標、15の具体策

出典: PDPC公式/IMDA公式発表/MDDI公式

個人データ保護法の2021年改正では、データ侵害の通知義務が明確化されました。NAIS 2.0は、ローレンス・ウォン副首相(当時)が「AI for the Public Good」というビジョンのもと発表しています。

06日本企業への示唆

シンガポール向けにAIサービス・コンテンツを展開する日本企業は、次の3点を確認しておくことをおすすめします。

  1. 検索エンジン対策はGoogle中心で足りますが、Cốc Cốc等の少数エンジンの存在も念頭に置いてください。 シンガポールはASEAN域内でも多言語・多国籍のユーザー層を抱える市場です。
  2. 自社のAIシステムをシンガポールで展開する場合、AI Verifyへの参加を検討してください。 DBS・シンガポール航空等の実在企業が参加実績を持つ、公的な検証プログラムです。
  3. PDPA改正で制裁金水準が明確化されているため、シンガポール向けにユーザーデータを扱うAIサービスを提供する場合、データ侵害通知義務への対応を専門家に確認することをおすすめします。

ASEAN各国の全体像は、別記事『ASEAN・オセアニアのAI検索地図|現地エンジンと規制を比べる』を参照してください。AIOの基礎整理は、別記事『AIOとは何か?SEOとの違い・共通点から始め方まで徹底解説』も参考になります。主要AI検索エンジンの特性差は、別記事『AI検索エンジンの種類と使い分けまとめ|主要7サービス比較表』も参考になります。

07FAQ

Q. シンガポールのAIガバナンス制度は外国企業にも関係ありますか?

関係があります。AI Verifyのパイロット企業には、AWS・Google・Meta・Microsoftなど外国籍企業も名を連ねています(出典: PDPC公式発表)。ただし日本企業固有の参加条件は、本稿執筆時点で確認できていません。

Q. AI Verifyは日本企業も参加できますか?

本稿執筆時点で、参加条件の詳細(国籍要件の有無等)までは一次情報で確認できていません。IMDA・AI Verify Foundation公式サイトでの確認をおすすめします。

Q. agentic AI向けガバナンス枠組みとは何ですか?

AIが人間の指示なしに自律的にタスクを遂行する「エージェント型AI」に特化した、世界初の政府発ガバナンスモデルです。2026年1月にダボス会議で発表され、同年5月に更新版が公開されました。

08この分野を体系的に学ぶ

この記事は国・地域プロファイル記事です。海外のAI検索規制・市場動向を基礎から体系的に学びたい方は、AI検索最適化講座「事例編: ケーススタディ徹底分析(VI-C)」をご覧ください。