英国は2025年2月、AI Safety InstituteをAI Security Instituteへ改称し、国家安全保障の領域へ重心を移しました。一方でAI検索そのものへの実質的な規律は、競争市場庁(CMA)がGoogle検索に課した行為要件が担っています。本稿では英国の検索市場の実態と、AI検索に影響する規制の全体像を一次情報にもとづき整理します。
01結論サマリー
引用されやすい定義文Googleが9割超を占める一方、世界で最も踏み込んだAI検索規制が動いている市場です。
GoogleのAI検索に世界で最も踏み込んだ規制介入を始めたのは英国の規制当局です。検索エンジン市場でのGoogleのシェアは91.19%(2026年6月・Statcounter)に達しています。
英国でAI検索の設計に最も強く介入しているのは、AI安全性の研究機関ではなく、CMAによるデジタル市場規制です。CMAは2025年10月、Googleの一般検索・検索広告サービスに「戦略的市場地位(SMS)」を認定しました。これにもとづき2026年6月、パブリッシャーがAI Overviewsでの自社コンテンツ利用を拒否できる、世界初の行為要件を発効させています。日本企業が英国から学ぶべきは個別の検索対策より、規制がAI検索の設計そのものに介入し始めたという前例です。
02検索エンジン市場の実態(シェア実測)
英国の検索エンジン市場は、Googleの寡占状態が続いています。
| 検索エンジン | シェア |
|---|---|
| 91.19% | |
| Bing | 6.22% |
| Yahoo! | 1.25% |
| DuckDuckGo | 0.71% |
| Ecosia | 0.32% |
| Yandex | 0.27% |
出典: Statcounter Global Stats(全デバイス合算・2026年6月)
本稿のシェア数値はStatcounter単独に依拠しています。CMA自身の市場調査データとの突合は本稿執筆時点で確認できていません。
03AI検索の普及状況
英国でAIチャットボットを週次でニュース目的に利用する人の割合は4%です。これは調査対象48市場の中で最も低い水準です(出典: Reuters Institute Digital News Report 2026)。 この数値は前年から横ばいでした。
AI回答への信頼度も英国は6%にとどまり、世界平均の20%を大きく下回ります。一方、通常のニュース報道への信頼度は英国で30%です(世界平均37%より7ポイント低い水準)。英国の読者は、AI検索の利便性よりも情報の正確性への懐疑を強く持っていると読み取れます。この傾向は、後述するCMAの規制強化とも整合的です。
04現地の取り組み・実例
英国では、AI検索に特化した企業の独自事例は本稿執筆時点で確認できていません。その代わりに、政府主導の規制的介入という形で、AI検索の設計そのものに影響を与える動きが具体化しています。
Google Search Consoleの「生成AIパフォーマンスレポート」は、2026年6月3日に発表されました。英国のサイト運営者から先行展開されています(出典: Google Search Central Blog)。この英国先行の背景には、CMAがGoogleに課した行為要件があります。
レポートの分析実務手順は、別記事『Search ConsoleでAI検索流入を月次分析する方法』で解説しています。レポート自体の詳細は、別記事『GSC「生成AIパフォーマンスレポート」を使いこなす実践ガイド』で解説しています。
CMAは2025年10月10日、Googleの一般検索・検索広告サービスに「戦略的市場地位(SMS)」を認定しました。これはDigital Markets, Competition and Consumers Act 2024にもとづく判断です。この認定を受け、CMAは2026年6月3日に「パブリッシャー行為要件」を発効させました。
パブリッシャーは、自社コンテンツがAI Overviews等のAI機能で使われることを拒否できます。AIモデルの微調整(fine-tuning)への利用も制限できます。CMAのサラ・カーデル長官は、この措置を「世界初の要件」と説明しています(出典: gov.uk)。さらに2026年6月17日には、検索結果のランキング透明性とデータポータビリティに関する行為要件も発効しました。
このパブリッシャー行為要件と同種の発想は、Perplexityが2025年8月に開始した収益分配の仕組みにも見られます。詳細は別記事『Perplexity「Comet Plus」収益分配の仕組みを解説』のとおりです。AI企業側が自主的に収益を分配する動きと、英国のように規制側がオプトアウト権を義務化する動きが、並行して進んでいます。
05規制・政策
英国には、EUのAI Actに相当する包括的なAI規制法はありません(出典: House of Commons Library)。政府は「AIは利用される文脈ごとに、既存の規制機関が規律する」という立場を採用しています。データ保護は情報コミッショナー事務局(ICO)、競争・消費者分野はCMAが、それぞれの権限の範囲でAIに対応する体制です。
AI検索に最も強く関与しているのはCMAです。CMAはDigital Markets, Competition and Consumers Act 2024の権限にもとづいています。この権限を使い、Googleの検索サービスを「戦略的市場地位(SMS)」に認定し、行為要件を課しています。
一方、AI Security Instituteは、化学・生物兵器開発やサイバー攻撃など、国家安全保障に関わるリスク評価が主軸です(出典: gov.uk)。AI検索の商慣行に直接介入しているのはCMAであり、AI Security Instituteではありません。 この役割分担を理解することが、英国のAI検索規制を読み解く出発点になります。
なお、The Vergeが提起した「Google Zero」現象のように、検索結果内で情報が完結しクリックが発生しない懸念は英国でも共通します。詳しくは別記事『「Google Zero」現象とは何か|The Verge報道解説』で扱った視点が、英国のパブリッシャー行為要件をめぐる議論とも重なります。
06日本企業への示唆
英国向けにコンテンツを展開する日本企業は、次の3点を確認しておくことをおすすめします。
- Search Consoleの生成AIパフォーマンスレポートは、英国先行で確認できる可能性があります。 英国拠点や英国向けプロパティを持つ場合は、日本本社より早く新指標を確認し、AI経由流入の計測体制に反映することをおすすめします。
- CMAのパブリッシャー行為要件は、当面Googleと英国のニュース・パブリッシャーの関係を対象としています。 一般企業サイトへの直接適用は、本稿執筆時点で確認できていません。ただし、AI企業とコンテンツ提供者の権利関係を規律する先例として、他地域の議論に波及する可能性があります。
- 英国の読者はAI回答への信頼度が6%と低く、通常のニュース報道への信頼度30%の方が高い状況です。 英国向けコンテンツでは、AI経由の流入時こそ一次情報へのリンクと著者の専門性シグナル(E-E-A-T)の明示を優先課題にしてください。
07FAQ
Q. 英国はAI検索を規制する専用の法律を持っていますか?
本稿執筆時点で、英国にAI検索専用の法律はありません。CMAがDigital Markets, Competition and Consumers Act 2024の権限を使っています。Googleの検索サービスに個別の行為要件を課す形で対応しています。
Q. AI Security Instituteは、AI検索の規制機関ですか?
いいえ。AI Security Instituteは、サイバー攻撃や兵器開発などの国家安全保障リスクを評価する研究機関です。AI検索の商慣行に直接関与しているのは、競争市場庁(CMA)です。
Q. 英国のGoogle Search Console生成AIレポートは、日本のアカウントでも使えますか?
2026年6月時点では、英国のサイト運営者の一部から先行展開されています。日本を含む他地域への具体的な展開時期は、Google公式には明言されていません。
08この分野を体系的に学ぶ
この記事は国・地域プロファイル記事です。海外のAI検索規制・市場動向を基礎から体系的に学びたい方は、AI検索最適化講座「事例編: ケーススタディ徹底分析(VI-C)」をご覧ください。