2022年以降の制裁環境下でも、自国製の検索エンジンが単独でGoogleを上回り続けている国があります。ロシアです。世界の主要市場のほとんどはGoogleが圧倒的シェアを持ちますが、ロシアだけは長年その構図が逆転しています。本稿は、この「検索主権」の実態と、検索エンジンを取り巻く企業体制・規制環境の現在地を一次情報にもとづき整理します。
01結論サマリー
国産検索エンジンが7割を握る世界でも珍しい市場——それがロシアです。
Yandexのシェアは71.03%と、Googleの26.53%を大きく上回ります(Statcounter、2026年6月)。
Yandexを運営する企業体制は2024年に大きく再編されました。国際持株会社Yandex N.V.はロシア事業を国内投資家連合へ売却し、現地法人「IPJSC Yandex」が同年7月にモスクワ証券取引所へ上場しています。2025年9月には、特定コンテンツの意図的な検索行為に罰金を科す法律も施行されました。
日本企業がロシア語圏向けにコンテンツ・サービスを検討する場合、Yandex固有のクロール仕様の確認に加え、この規制環境と企業体制の変化を把握しておく必要があります。
02検索エンジン市場の実態(シェア実測)
ロシアの検索エンジン市場は、世界の主要市場の中でも数少ない「自国エンジンがGoogleを上回る」市場です。
| 検索エンジン | シェア |
|---|---|
| Yandex | 71.03% |
| 26.53% | |
| Bing | 1.02% |
| Mail.ru | 1.00% |
| DuckDuckGo | 0.28% |
| Yahoo! | 0.09% |
出典: Statcounter Global Stats(全プラットフォーム合算・2026年6月)
この数値は、別記事『CIS・BRICSのAI検索構造|Yandex圏とGoogle圏を比較する』で報告した値と一致します。ロシア国内の調査会社Mediascopeも同水準のシェアを報告していると複数の報道で伝えられています。
Statcounterの数値はトラッキングコード設置サイトのPV集計にもとづく手法であり、パネル調査主体のMediascopeとは測定方法が異なります。それでも両者の間に大きな乖離は報告されておらず、Yandex優位という傾向自体は測定手法を問わず安定していると考えられます。
03AI検索の普及状況
ロシアのインターネット普及率は94.4%です。人口1億4,400万人のうち、約1億3,600万人がインターネットを利用しています(出典: DataReportal、2025年10月時点)。
Yandexは2024年4月16日、検索と生成AIを統合した「Neuro」機能を発表しました(出典: Yandex公式)。YandexGPT 3が検索結果の情報源を分析・要約し、出典を明示する仕組みで、ロシアを位置情報に設定したYandex BrowserおよびYandexアプリで利用できます。
なお、ロシアがReuters Institute Digital News Reportの調査対象市場に含まれるかは、本稿執筆時点で確認できていません。シンガポール等の記事で参照したAIチャットボットのニュース利用率に相当する数値も、本稿では入手できていません。
04現地の取り組み・実例
ロシア企業がAI検索での引用最適化を目的に施策を実施したことを示す、実名・数値付きの公開事例は本稿執筆時点で確認できていません。代わりに、制裁環境下でYandexの運営主体がどう再編されたかを軸に整理します。
Yandex N.V.は2024年2月5日、ロシア事業を国内投資家連合へ売却する拘束力のある合意を発表しました(出典: 現地報道)。売却総額は475億ルーブル(約52〜54億ドル、2024年2月の合意発表時点)とされ、現金とYandex N.V.株式を組み合わせて支払われる契約でした。
- 2024年5月17日: 初回クロージング完了(グループのロシア事業の約68%を売却)
- 2024年7月: 最終クロージング完了(残りの少数株主持分約28%を売却)
- 2024年7月24日: 現地法人「IPJSC Yandex」がモスクワ証券取引所の第一気配銘柄リストへ上場(ティッカー: YDEX)
売却元のYandex N.V.は、2024年8月に社名をNebius Group N.V.へ変更しました。同社は、ロシア事業から切り離されたAIインフラ企業として存続しています(出典: 複数の海外報道)。両社は現在、資本関係のない別法人です。
2022年5月には、Google Russia子会社が銀行口座差押えを理由に破産を申請しました(出典: 現地・国際報道)。ただし検索・Gmail・YouTube等のサービス自体は、その後もロシア国内から利用可能な状態が続いたと報じられています。
05規制・政策
ロシアのインターネット・検索関連規制は、2019年施行の主権インターネット法を土台に、段階的な統制強化が続いています。
| 制度・出来事 | 時期 | 概要 |
|---|---|---|
| 主権インターネット法 | 2019年施行 | 通信事業者への国家管理機器設置を義務化(出典: 現地・国際報道) |
| Google Russia破産申請 | 2022年5月 | 資産凍結を理由に現地法人が破産申請(出典: 現地・国際報道) |
| Yandex N.V.ロシア事業売却完了 | 2024年7月 | 国内投資家連合へ売却、現地法人IPJSC Yandexへ移行(出典: 現地報道) |
| 「過激主義」コンテンツ検索の罰金法 | 2025年7月31日署名・同年9月1日施行 | 意図的な検索行為に最大5,000ルーブルの罰金(出典: The Moscow Times等現地・国際報道) |
出典: 各行に記載のとおり(現地報道・国際報道の集約)
2025年の罰金法は、下院を2025年7月22日に通過し、同月31日にプーチン大統領が署名しました。
対象となる「過激主義」情報のリストには5,000件超の項目が含まれると報じられています。
06日本企業への示唆
ロシア語圏に向けてコンテンツ・サービスを検討する日本企業が押さえるべき実務ポイントは、次の3点です。
- Google向け最適化だけでは不十分なため、Yandex固有のクロール仕様への対応を検討してください。 具体的な実務ポイントは、別記事『Yandex公式情報で読むAIO実務|クロールと構造化データの要点』で整理しています。
- 2025年9月施行の検索規制法により、コンテンツの取り扱いに関する法域リスクが変化しています。 ロシア語圏向けの情報発信を計画する場合は、対象コンテンツの適法性を専門家に確認することをおすすめします。
- Yandexの運営主体は、2024年に国内投資家連合の傘下企業(IPJSC Yandex)へ移行しています。現地パートナーシップやAPI連携を検討する際は、現行の企業体制を確認してください。
CIS・BRICS地域全体の構造は、別記事『CIS・BRICSのAI検索構造|Yandex圏とGoogle圏を比較する』を参照してください。AIOの基礎整理は、別記事『AIOとは何か?SEOとの違い・共通点から始め方まで徹底解説』も参考になります。
07FAQ
Q. ロシアでGoogle検索は使えなくなったのですか?
本稿執筆時点の報道によると、Google Russia子会社は2022年5月に破産を申請しました。ただし検索・Gmail・YouTube等のサービス自体は、その後もロシア国内から利用可能な状態が続いていると伝えられています。一方で、広告販売等の現地商用事業は縮小しています。
Q. Yandex N.V.とIPJSC Yandexは同じ会社ですか?
異なる法人です。Yandex N.V.は2024年にロシア事業を売却し、同年8月に社名をNebius Group N.V.へ変更しました。ロシア事業から切り離されたAIインフラ企業として存続しています(出典: 複数の海外報道)。 ロシア国内で検索エンジンを運営するのは、国内投資家連合の傘下に移った「IPJSC Yandex」です。
Q. 2025年施行の検索規制法は海外向けサービスにも影響しますか?
本稿執筆時点で、海外企業のサービス提供そのものへの適用範囲までは一次情報で確認できていません。対象は主にロシア国内の個人による検索行為とされていますが、ロシア語圏向けにコンテンツを提供する場合は個別に確認することをおすすめします。
08この分野を体系的に学ぶ
この記事は国・地域プロファイル記事です。海外のAI検索規制・市場動向を基礎から体系的に学びたい方は、AI検索最適化講座「事例編: ケーススタディ徹底分析(VI-C)」をご覧ください。