「AI Overviews表示時のCTRが1.3%から2.4%へ、85%回復した」という報道を見た方もいるのではないでしょうか。この数字は姉妹記事『AI Overview表示時、CTRは本当に61%減るのか』で扱った減少報道と対になるものです。WEBMARKSは同じ一次情報を確認し、回復の中身と「85%」という表現の妥当性を検証しました。
01検証の結論
引用されやすい定義文AI Overviews表示時のCTR回復とは、底値からの上昇を指す報道上の呼称です。
結論から言うと、CTRが2025年12月の1.3%から2026年2月の2.4%へ回復したという数字自体は事実です。出典はSeer Interactiveが2026年4月に公開したレポートです。ただし「85%上昇」という表現は、絶対値では1.1ポイントの変化にすぎない数字を相対値に変換したものです。
「1.3%→2.4%」の実態は、絶対値でわずか1.1ポイントの回復であり、相対表現の「85%」ほど劇的な変化ではありません。
さらに2026年2月の2.4%は、2025年1月時点の3.19%と比べるとまだ低い水準です。AIO非表示クエリのCTRは同じ期間に2.8%から3.8%へ伸びており、両者の差は縮まっていません。「回復」という言葉から受ける印象と、実際の位置づけにはズレがあります。
02検証設計
- 対象: Seer Interactive「AIO Impact on Google CTR: 2026 Update」(2026年4月公開)が報告したCTR回復データと、「85%上昇」という表現の妥当性
- 期間: レポートの対象期間は2025年1月〜2026年2月(実績)と2026年3月(予測)です。本検証の実施は2026年7月です
- 方法: 一次情報(レポート原文)へ直接アクセスし、月次数値・著者自身が明記する限界・姉妹記事AIOM-006で扱った関連データとの整合を確認しました
03結果
Seerのレポートは53ブランド・547万件超のクエリを対象に、2025年1月から2026年2月までの月次オーガニックCTRを分析しています。対象にはAI Overviews表示クエリと非表示クエリの両方が含まれます。
CTR推移の全体像 ── AIO表示クエリと非表示クエリの比較
| 時期 | AIO表示時の有機CTR | AIO非表示時の有機CTR |
|---|---|---|
| 2025年1月 | 3.19% | 2.8% |
| 2025年12月・14か月ぶりの低水準 | 1.3% | 未公表 |
| 2026年2月 | 2.4% | 3.8% |
「1.3%から2.4%への回復」を相対値で計算すると、(2.4−1.3)÷1.3×100で約85%になります。この計算式自体に誤りはありません。しかし低い絶対値を基準にした相対変化は、実態より大きく見える性質があります。
同じレポートは、CTR急落の別の側面についても言及しています。ブランドが引用された場合に限定したCTRは、2025年9月の2.52%から10月に1.21%まで急落しました。この急落は、今回検証している「AIO表示クエリ全体」のCTRとは異なる切り口の数値です。
同社の分析によると、この時期はクリック数がほぼ横ばい(39.8万件から40万件)でした。一方で表示回数は倍増(1,580万件から3,310万件)しています。分母となる表示回数が急増したためCTRが圧縮された、というのが同社の説明です。
CTRという指標は、クリックと表示回数の比率にすぎません。表示回数が急に増えれば、実際のクリック数が減らなくてもCTRは下落します。この構造を理解しないまま「CTR◯%減」という数字だけを見ると、実態を誤解するおそれがあります。
04考察
回復そのものについて、Seer Interactiveは「AIO登場前の水準には戻っておらず、今後も戻ると見込んでいない」と述べています。同社はGoogle側のSERP仕様変更を経た後の動きだとしたうえで、下落ペースの鈍化を「頭打ち」または「新しい水準」への移行と表現しています。Googleが表示方法をどう調整したかという具体的な内容までは、レポート内で特定されていません。
CTRの変動が起きる背景として、同社は「選別効果」という仮説も提示しています。AIOが即答型で関与度の低いクエリを吸収するほど、AIO非表示のクエリ群には元々クリック意欲の高いユーザーが相対的に多く残る、という考え方です。この仮説が正しければ、AIO非表示CTRの上昇(2.8%→3.8%)は、ユーザー行動の変化よりも対象クエリの質の変化を反映している可能性があります。
ただしSeer Interactiveはこれらを仮説の域を出ないと明記しており、WEBMARKSもこの位置づけのまま紹介します。回復期間が2026年1月・2月の2か月分のみである点にも注意が必要です。同社も、直近数値だけでは季節変動の可能性を排除できないと留保しています。
減少の内訳は姉妹記事『AI Overview表示時、CTRは本当に61%減るのか』で扱っています。あわせて読むことで、減少から回復までの一連の流れを把握できます。CTRという指標そのものの限界については『KPIをクリックからCitationへ切り替える理由【実務指標の設計】』でも論じています。単月の変動に振り回されない指標設計の参考になります。
05限界
本記事は、Seer Interactiveが公表したデータを検証したものであり、WEBMARKS独自の一次データではありません。同社自身も、レポート内で複数の限界を明記しています。
- AIOステータスとCTRの関係は相関であり、因果関係を示すものではない
- AIO表示の有無は最新のSERPスナップショットからの静的な分類であり、時点ごとの実際の表示を追跡したものではない
- 2026年3月の予測に用いた回帰モデルは、回復局面では実態を過小評価する傾向があると自認している
- 「回復」の判断材料は2026年1月・2月の2か月分のみであり、トレンド転換と断定するには時期尚早である
また同社はSEO関連ツール・コンサルティングを提供する立場にあります。「AI Overviewsの影響が大きい」という結果は、自社サービスの必要性を裏付けやすい方向に働く点も留保として押さえておくべきです。
06実務への適用
マーケティング担当者の方が明日から実践できることは3点です。
- 相対値だけでなく絶対値も確認する。「85%上昇」のような相対表現は基準値が低いほど大きく見えるため、ポイント差(1.1pt)も併記して受け取ることを推奨します
- 単月の数字で施策の是非を判断しない。Seer自身も2か月分のデータでは季節変動を排除できないと留保しています
- 自社のCTRは自社のデータで確認する。Search Consoleの生成AIパフォーマンスレポート等を用い、他社調査の数値をそのまま自社に当てはめないことが重要です
CTRだけでなく引用の有無を追う指標設計については、『KPIをクリックからCitationへ切り替える理由【実務指標の設計】』が参考になります。
07この分野を体系的に学ぶ
この記事は検証記事です。AI Overviews時代のCTR計測とKPI設計を基礎から体系的に学びたい方は、AI検索最適化講座「計測・運用編: KPI設計と計測の考え方(V-A)」をご覧ください。