SaaSマーケティング担当者の方の中には、リード獲得の起点がAI検索に移ったと感じる方も多いのではないでしょうか。G2が2026年4月に発表した調査では、BtoBソフトウェア購入者の半数以上がAIチャットボットで比較検討を始めています。
本記事は、これらの発表を一次情報にもとづいて整理します。そのうえで、AI回答の引用元に関する複数の調査結果を比較し、SaaS企業が比較検討フェーズで引用されるための準備を解説します。
01事例の結論
2026年に入り、G2をはじめとするレビュープラットフォームとSaaS企業の双方が、AI検索経由の比較検討に対応する動きを本格化させました。
G2の調査では、BtoBソフトウェア購入者の51%が、GoogleよりもAIチャットボットで比較検討を始めると回答しています(2025年4月の29%から増加、出典: G2)。 一方、AIの回答が実際にどこを引用するかは、調査によって結果が大きく分かれています。G2やCapterraなどのレビューサイトへの直接引用は、ある調査では0%、別の調査では約12%と幅があります。
つまり、AI検索が比較検討の起点になっている流れ自体は一致しています。しかし、レビューサイトさえ整えれば引用されるという単純な話ではありません。SaaS企業が今すぐ着手すべきは、独自の比較コンテンツとコミュニティでの存在感を並行して整えることです。
02背景・課題
BtoB SaaSの導入検討は、複数の担当者が数週間から数ヶ月かけて比較する長いプロセスをたどります。
引用されやすい定義文AI検索経由の比較検討とは、購入者がGoogleでなくAIチャットボットで比較・検討する購買行動を指します。
この検討フェーズでは、従来G2・Capterraなどのレビューサイトや第三者の比較記事が重要な役割を果たしてきました。
しかし、AIチャットボットで比較検討を始める購入者が増えたことで、情報収集の入り口が変わりつつあります。G2の調査では、AIの推奨をきっかけに購入者の約70%が当初と異なるベンダーを選んでいます。さらに3人に1人が、それまで知らなかった企業から購入したと回答しました(出典: G2「The Answer Economy」)。
SaaS企業にとっての課題は、こうした変化にどう対応すべきかが明確でない点です。レビューサイト側もAI時代に対応する動きを見せています。しかしAIの回答が実際に何を引用するかについては、後述のとおり調査結果が一致していません。
03施策の詳細
2025年後半から2026年前半にかけて、レビュープラットフォームとSaaS企業側でそれぞれ具体的な動きがありました。主な事例は以下の3つです。
- G2によるCapterra・Software Advice・GetAppの買収: 2026年1月29日に買収を発表し、2026年第1四半期中の完了予定とされました(出典: G2公式発表)。検証済みレビュー約600万件を統合し、年間2億人以上の利用者基盤を持つプラットフォームになる計画です。2026年3月には、AIアシスタントがG2の検証済みレビューを直接参照できるMCP(Model Context Protocol)をClaude連携で発表しました。
- Apollo.ioによるRedditコミュニティ構築: セールスインテリジェンスツールを提供するApollo.ioは、公式サブレディット「r/UseApolloIO」を運営しています。5ヶ月で登録者1,100人以上、閲覧数33,400件超に成長しました(出典: HubSpot公式ブログ)。
- Zapierによるコンテンツ構造化: 自動化ツールを提供するZapierは、AIが抽出しやすい構造でのコンテンツ作成をGEO戦略の柱にしています。質問への明確で直接的な回答や構造化フォーマットの重要性を、自社ブログで解説しています。
G2がこの買収に踏み切った理由の一つが、AI回答内での引用シェア拡大です。マーケティング分析会社Omniscient Digitalの試算では、G2単独の引用シェアは2.09%でした。4サービス合算では3.68%まで上昇すると試算されています(出典: Omniscient Digital、2026年2月)。ただし、モデルによる試算である点には注意が必要です。
04成果
G2の調査からは、AI検索が購買行動に与える影響の大きさがうかがえます。AIチャットボットの推奨を信頼する最大の決め手は「レビューサイトの引用」であり、確信を持って購入を決めた回答者の45%近くがこれを理由に挙げています(出典: G2発表・2026年)。
一方、AIの回答がどの情報源を引用するかは、調査によって結果が大きく異なります。
| 調査 | 対象・時期 | レビュー集約サイトの引用比率 | 最も引用が多い情報源 |
|---|---|---|---|
| DerivateX | B2B SaaS40カテゴリ・ChatGPT(2026年5月) | 1%未満(233件の引用サンプル中、レビューサイトの直接引用は0件) | 独立系ブログ・ベンダーページ(81.9%) |
| LLMRanks | PM/コラボツール6製品・3エンジン(2026年6月) | 約1% | ニッチブログ・リスト形式記事(59%) |
| Hall | 比較・レビュー系質問全般・4エンジン(2025年6月) | G2単独8.25%(ChatGPT)〜11.70%(Copilot) | プラットフォームごとに異なる |
3つの調査に共通するのは、AIの回答がレビューサイトへの直接リンクを避ける傾向です。代わりに、独立系のブログ記事やベンダー自身の比較ページが引用されやすくなっています。ただし、Hallの調査はSaaS業界に限定されておらず、実施時期も2025年半ばとやや古い点には注意が必要です。
レビューサイトが無意味というわけではありません。SaaSの「代替品」を尋ねるChatGPTの回答を分析した、別の調査があります(出典: Quoleady、2026年6月)。言及されたツールのうち、100%がCapterraに、99%がG2にレビューを持っていました。
ただし、レビューの件数そのものは、AIの推奨順位とはあまり関係がないようです。Capterraのレビュー件数と推奨順位の相関は-0.21、G2は-0.16と、いずれも弱い相関にとどまっています。この結果からは、レビュー件数を闇雲に増やすより、ドメイン全体の権威性を高める方が重要である可能性がうかがえます(出典: Quoleady)。
05再現のためのポイント
これらの動きから、WEBMARKSはSaaS企業に以下5点の準備を推奨します。
- G2・Capterraへの登録とレビュー獲得を土台として維持する。直接の引用シェアは限定的でも、AIが製品の実在性を確認する土台になります。
- 「(自社) vs (競合)」比較コンテンツを自社で発信する。独立系ブログやベンダーページは、複数調査で最も引用されやすい情報源でした。構造化された比較表・FAQ形式でまとめることが有効です。
- RedditなどのコミュニティでAI以前に人間の役に立つ。Apollo.ioの事例のように、宣伝色を抑えた実用的な情報発信が、結果としてAIにも引用されやすくなります。
- ドメイン全体の権威性を高める。Quoleadyの調査では、レビュー件数よりドメインオーソリティの方が、推奨順位との相関が強く出ています。
- 複数のAIエンジンを個別に観測する。Hallの調査が示すように、ChatGPT・Perplexity・Copilotは参照元の傾向が異なります。単一エンジンの結果で判断しないことが重要です。
逆に陥りやすい落とし穴は、レビューサイトへの登録だけで満足してしまうことです。DerivateXの調査が示すように、レビュー集約サイトが直接引用される比率はごくわずかにとどまります。登録は前提条件であり、引用そのものを獲得する施策ではないと理解しておく必要があります。
06業界別の応用
SaaS業界の中でも、カテゴリによって引用されやすい情報源には違いがあります。
CRM・プロジェクト管理・マーケティングオートメーションなど、競合の多い水平型SaaSがあります。この領域では、独立系の比較ブログやYouTubeレビューが強い影響力を持つ傾向にあります(出典: LLMRanks)。
一方、業界特化型の垂直型SaaSでは、専門プラットフォームへの引用集中が起きやすいと考えられます。Hallの調査では、デジタル代理店領域でClutchという専門プラットフォームが、各AIエンジン共通で60〜80%台の高い引用シェアを占めていました。
BtoB SaaS全般では、この記事で紹介した各種調査を定点観測しながら、自社カテゴリでの傾向を継続的に確認することをおすすめします。
07FAQ
Q. SaaS企業はG2・Capterraへのレビュー登録を優先すべきですか?
はい、優先度は高いといえます。複数の調査で、AIに推奨されるツールのほぼ全てがG2・Capterraにレビューを持っていました。ただし、レビュー登録自体が引用リンクに直結するわけではない点には注意が必要です。独自の比較コンテンツなど、他の施策と組み合わせて進めることをおすすめします。
Q. AIチャットボットごとに対策を変える必要がありますか?
ある程度、意識する価値はあります。Hallの調査では、ChatGPTはGetAppを、PerplexityはGartnerを、CopilotはSourceForgeを優先する傾向が確認されました。ただし2025年半ばの調査であり、この傾向が現在も続いているとは限りません。自社が重視するAIエンジンで、定期的に自社カテゴリのプロンプトを試すことをおすすめします。
Q. 中小規模のSaaS企業でもAIO対策は可能ですか?
可能です。Apollo.ioの事例のように、大きな予算をかけずにコミュニティでの実用的な情報発信から始める方法があります。まずは自社カテゴリの代表的な質問をAIチャットボットに実際に入力し、現状のAI上での見え方を確認することから始めるのがおすすめです。
08この分野を体系的に学ぶ
この記事は事例分析記事です。SaaS業界のAIO事例を基礎から体系的に学びたい方は、AI検索最適化講座「実践応用編: 業界別・日本市場で勝つ」をご覧ください。